世界一おいしいヘーゼルナッツ



「ヌテッラ」大好き! という人、結構いるんではないでしょうか?


日本では「ヌテラ」と発音させているみたいだけど、

イタリア語風に言うと「ヌテッラ」だ。

チョコレートとヘーゼルナッツが合わさったスプレッド・クリームで、

パンに塗ったり、クレープに包んだりして食べる。


私もイタリアで暮らし始めた20数年、こんなおいしいものがあるなんて! 

と目をハートにして毎日朝ごはんのパンに塗り、

おやつにはグリッシーニですくって食べまくった。

どれだけ早くヌテッラのひと瓶を食べきったか、

どれだけヌテッラ太りしたかなどなど、

留学生&在住日本人仲間で自慢しあったりしたものだ。


                     可愛いくてつい買ってしまう、一食パックのヌテッラ。


ちょっと前まで、日本ではオーストラリア工場で

生産されたものが売られていて、

ヌテッラはイタリアのものだよ、というとびっくりする人もいたけど、

今はイタリアのものという認識が定着してきたらしい。
私が暮らすピエモンテ州にある「フェレーロ」という会社が作った

世界的名作、ジャンクなおやつクリームなのだ。
フェレーロの製品は他にも「キンダー」や「ロシェ」なんかが

日本で売られている。


ところが、ピエモンテ州には、実はヌテッラよりも

もっともっとおいしい、ヘーゼルナッツ&チョコのスプレッドクリームがある。

日本でも人気の「グイド・ゴビーノ」や「カファレル」「ベンチ」は

みんなピエモンテのチョコレート会社で、
ジャンクでない、上質なヘーゼルナッツ&チョコのクリームも
日本で販売しているのだが、

その上質くんたちよりもっともっと、
香り高く香ばしい、おいしいクリームがあるのだ。
もっともっとと、シツコクってすいません、

でもどうしてもそう書きたくなるおいしさなのだ。


ちなみにここでいう「ジャンク」と「上質」の違いは何かというと、

ヌテッラの原材料で一番多いのは砂糖、次にパームオイル、

そしてヘーゼルナッツは全体の13%だけ、

一方、「グイド・ゴビーノ」のジャンドゥイヤ・クリームを見てみると、

45%がピエモンテ産ヘーゼルナッツ、

そして砂糖、カカオパウダー、脱脂粉乳という感じだ。


そのグイド・ゴビーノたち高級ブランド品よりも
さらにおいしいクリームを作る

ヘーゼルナッツの作り手をめぐる、こんな物語がある。


ピエモンテ州ランゲ地方の、レクイオ・ベッリアという小さな村に、

3代続くヘーゼルナッツ農家があった。

この辺りで採れるヘーゼルナッツは、

「トンダ・ジェンティーレ・デッレ・ランゲ」と呼ばれ、

最高級のクオリティを認められているけれど、

ほとんどのヘーゼルナッツ農家は、協同組合を通して

ヘーゼルナッツを流通する、そういう形を取っていた。

祖父と父が畑で働く一方で、3代目の跡取りとなる予定のヨゼ青年は、
フェレーロの工場で働きヌテッラを作っていた。


              レクイオ・ベッリア村

でもある時、実家で作るヘーゼルナッツは

とても香りが高くおいしいのに、それがヌテッラには生かされていない、

残念だな、と思うようになる。

毎日通勤するために下り登りするランゲの丘は、

下の方には、後に世界遺産にも指定される美しいぶどう畑、

上へ上へ登ってくると、ヘーゼルナッツの森が一面に広がっていた。


彼は意を決して、自分のヘーゼルナッツを、自分で製品化することを決める。

「PAPA DEI BOSCHIパパ・デイ・ボスキ」の誕生、今から15年前の話だ。


  レクイオ・ベッリア村の展望台からみた一面のヘーゼルナッツ畑


ホセとマリアの夫婦で経営する「パパ・デイ・ボスキ」社では、

自分たちで収穫したヘーゼルナッツを、畑の一角にある小さなラボラトリーで、

スプレッド・クリームの他、殻付き、殻無しのヘーゼルナッツに加工し、

販売している。収穫、乾燥、トースト、そしてクリームなどに加工する工程を、

ていねいにていねいに、全て手作業で行っているから、

大量生産はできない。だから日本では、
限られたパティシェやジェラート職人の人たちだけが、
直接購入して、使っている。


           畑で作業中のヨゼ。40ヘクタールの畑を一人で収穫する。

   この小さなラボラトリーで極ウマのヘーゼルナッツが生まれる


ピエモンテ州のランゲ地方は世界的なワインの生産で有名だが、

「パパ・ディ・ボスキ」がある標高700mの

レクオ・ベッリア村一帯はアルタ・ランガ地方(ランゲの高い方)と呼ばれ

「ここでワインを作るとあんまりおいしいのができないけど、ヘーゼルナッツは最高。

逆に下の方のヘーゼルナッツは普通のクオリティ、でもワインは最高。

土地と気候のマジックよね」と、

いつもホセを手伝いてんてこまいに働く、奥さんのマリアが笑う。


             見学にいくとどんどん味見をさせてくれる奥さんのマリア。


実は私は、ピエモンテに長いこと住んでいても、

ヘーゼルナッツをそんなにおいしいと思ったことがなかった。

ピエモンテーゼたちはことあるごとにヘーゼルナッツをポリポリ食べ、

ジャンドウィオッティやジェラートなどなど、

ヘーゼルナッツがDNAに含まれているんじゃないかと思うほど、
使い、食べまくる。

ピエモンテ産のヘーゼルナッツは
Tonda Gentile delle Langheトンダ・ジェンティーレ・デッレ・ランゲ
(ランゲのトンダ・ジェンティーレ種)と呼ばれ、

イタリア国内はもちろん、世界の他の生産地のものと比べても
格別に質が高いと認められているのは知っている。

でもだからといって、私は別においしいとは思わなかったのだ。
それはランゲのヘーゼルナッツの質の問題ではなくて、

ただ単に、私の好みの問題なんだけど。


ところがある時、「パパ・ディ・ボスキ」の

ヘーゼルナッツを食べる機会があった。

スプレッド・クリームではなくて、

トーストしたナッツのままのヘーゼルナッツ。



えー? こんなにおいしいの?? とびっくりした。

今まで食べていたヘーゼルナッツはなんだったの?


浅草でワインバー「ピンコ・パリーノ」をやっている浅井美加ちゃんは、

かつてピエモンテに住んで、スクーターでランゲの丘や森を駆け抜け、

アンジェロ・ガヤやらエリオ・アルターレといった

ピエモンテの超ビッグワインメーカーたちを

臆することなく訪ね歩き、そして友達になったという豪快な女性だ。

そしてランゲ地方の色々な生産者と家族のような濃い付き合いをしたという。


そのミカちゃん曰く、パパ・ディ・ボスキのヨゼは、

ヘーゼルナッツ界のアンジェロ・ガヤと周りから呼ばれているという。
世界でも最高峰ワインの一つ、アンジェロ・ガヤと同じぐらい、
品質にこだわり、最高級なものを作っているということだ。


         ヘーゼルナッツは自然に木から落ちるのを待って、巨大掃除機のような車で収穫する。


そんなヨゼとマリアが作るヘーゼルナッツは、

私をびっくりさせるおいしさだっただけでなく、

ヌテッラなんてもう食べられない、こんな身体に誰がした!

と恨みたくなるほどおいしいおいしい、

スプレッド・クリーム、ヘーゼルナッツを60%も含む、

極ウマなヤツを作っているのである。


世界一の品質を誇るピエモンテの中の

最高峰のクオリティなんだから、

世界一のヘーゼルナッツというタイトル、

全然大げさなんかじゃないと思う。

 
左はブラックチョコレートとヘーゼルナッツのスプレッドクリーム。右はジャンドウィヤクリーム。ヘーゼルナッツ含有量はなんと60%













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