3月の悪夢、そしてロックダウン再び? 

  ピエモンテ州の某有名チーズショップ前。牛だってマスク着用のイタリア。

9月から書かせてもらっている
ニューズウィーク日本版のWorld Voiceというコーナーで、
漫画家のヤマザキマリさんが「イタリア人は鼻をかんだハンカチを
他人と使い回すからコロナ感染が拡大し
」という自説を
あちこちで書いたり出版までしている件について書いた。

鼻を噛んだハンカチだろうがティッシュだろうが
それを使い回すだなんて、そんな不潔なことをするイタリア人は
少なくとも私の周りにはいない。私の知り合いの
イタリア在住者に聞いても、そんなことない!という。
ヤマザキさんの周りに一人ぐらいそういう人がいたのかもしれないが、
(ご自身の夫がそうだと書いている)、
それがイタリア人のノーマルであるように書き、
そのせいでコロナウイルスの感染が拡大しただなんて、
イタリア人でない私でもかなり不愉快に思ったという話。

ニューズウィーク上ではあまりPVを稼げなかったようだけど、
イタリア好き、イタリア在住者が集まっている私のFB上では、
ちょっとした反響。その中で
素敵なコメントをくれた方がいた。その人はこう言っている。

イタリアで感染が急激に広まったのは、
日常的にハグしたり、鼻ピアスにタトゥーをしてるようなお兄さんでも
お年寄りにはさっと手を貸してあげたり、
知らぬ同士でもすぐに政治やスポーツの話題で
どこでも盛り上がるせいじゃないか。
そして日本ではそれらがほぼない、
っていうのも感染拡大が緩やかな理由では
(?)」


隣のフランスと、イギリスもロックダウンに入り、
イタリアもそれを追いかけるように感染者数も死者数もどんどん増えている。

9月には1,000人台をキープできていたのに、
10月1日に2000人を突破(2,548人)してからは
ぐんぐんと感染カーブはうなぎ登り、
10月31日には31,756人、死亡者297人。

Rt(実効再生産数)もちょっと前の1,5から1,7に上昇し、
イタリア中を緊張が覆っている。



10月25日(日曜日)


優等生だったイタリアの感染者数が急に増えだして、
他のヨーロッパ諸国に習って「copri fuoco」

(コプリ・フオコ。夜間の外出禁止令)を決定したのがたった一週間前。

夜の23時から5時は外出禁止だった。でも感染拡大のスピードは緩むどころか
加速全開中だから、
たった1週間後の昨夜、新しい首相令が発表された。

レストラン、カフェ、バールなどの飲食業は全て18時以降営業禁止。
それ以前の時間も1テーブルに四人まで、ジム、プールはクローズ、
小中学校は通常通りだが高校は75%まで自宅でオンライン授業のこと、などなど。

飲食業が18時以降営業禁止ということは、事実上、夕食は営業禁止ということだ。
もともと夜しか営業していなかった店は、
対応策として急遽ランチを始めたりしているが、
未だに500万人がテレワークを続けている現状では、
ランチを外で食べる人は多くない。


  いつもなら夜は若者でごった返しているトリノのVittorio Veneto 広場。(著者撮影)


もし、もう一度3月のような全国ロックダウンになれば、
全イタリアにある34万軒の飲食店のうち5万軒が年末までに倒産し、
35万人が失業するだろうというFIPE(イタリア公共店舗連盟)の予想が報道された。



新規感染者数 21,273人 死亡者数 128人 検査数161,880人


10月26日(月曜日)


ナポリやローマやミラノで、首相令に抗議するデモが起きている。そしてトリノでも。

デモ隊が暴徒化して大騒ぎになっているけど、平和的に抗議する人に混ざって、
煽動するマフィアがいたり、極右の暴徒が混ざっていたりというのが各地の状況らしい。
今夜トリノでも、ひどい暴動になった。いつもは比較的お行儀がいい街なのに。


トリノのブランド街、ローマ通りのグッチやヴィトンが狙われて、
ショーウィンドウが破られ、商品が盗まれたんだそうだ。

コロナで仕事を失って、真面目に平和的に抗議したい人たちの声が、
届けたいところに届かない。なによりそんなふうに集まって暴れて、
感染が拡大しないかとても心配だ。





10月29日(木曜日) 


フランスは感染者数がついに7万人を超え、
今日の夜中の12時から全国ロックダウンだそうだ。
そしてドイツでも明日から、ソフトロックダウン。

イタリアの新規感染者数はまたもや最高記録で
2万6,831人(検査数201,452)、死者数も217人。
9月頃は、夏のバカンスのせいで感染者数が増えちゃったけど
死者が少ないから大丈夫、なんて少しのんびりしていたのが、
今はそんなこと全然言っていられない状態になってきた。


冬時間になった10月後半のイタリアは、夕方6時を過ぎれば真っ暗になる。
それでも、いつもならレストランやカフェの明かりが遅くまで灯っているから、
明るく賑やかだった。でも今は6時を過ぎた街は、薄暗くさみしい感じ。
ブティックなどは営業しているけど、飲食店が閉まっているから明かりが少ない。


車で走っていたら、中心街にはクリスマスのイルミネーションが設置されていた。
これに明かりが灯る日は来るのかな? と、ふと思う。

キラキラ輝くイルミネーションを見ながら、寒い街角をショッピングして歩く。

それもクリスマスシーズンの楽しみの一つだったはずなのに。


   毎年クリスマスシーズンには、通りごとにそれぞれ違う若手アーティストがデザインしたイルミネーションを飾るトリノ。著者撮影


10月30日(金曜日)


3月4月の第1波真っ只中の頃は、夕方の6時になるのが、ちょっと怖かった。
毎日その時間に市民保護局の記者会見があって、

1日の感染状況が発表されていたからだ。毎日毎日数字は増えて、

24時間で1,000人近くの人が亡くなっていた時期もあった。
5月を過ぎて感染も落ち着いて、そんなこと忘れていたのに、
また今、あの頃の嫌な感じが戻ってきてしまっている。
今日はついに1日の感染者数が3万人を突破してしまった。


10月31日(土曜日)


イギリスがロックダウンに突入するというニュース。
11月5日から12月2日までで、その後は緩和されるという計画。
クリスマスを楽しく過ごしたいから、今ロックダウンして
感染を抑えるのだとイタリアでも検討されているらしいけど、
第1波の時は、いつまで、という予定がどんどん、何度も延長されて
最終的には2ヶ月にも及んだよね、と思い出す。


そして明日は日曜日というのに、ローマで閣僚会議が開かれ、
コンテ首相や各州の長が来週からの新しい法令について議論するそうだ。
もはや飲食業を夜、閉めるだけでは感染は抑えられていないのは、
誰の目にも明らか。ついにイタリアもロックダウンなんだろうか??


     先日行ったスーパーでは、第1波ではずっと売り切れになっていた消毒剤の類がずらり。ロックダウンの準備態勢?(著者撮影)


11月1日(日曜日)


夕方には新しい法令が出るかと、ドキドキしながら
テレビをつけっぱなしにしていたけど、何も発表されない。
議論がまとまらないのだろうか、月曜日から実効の予定が
火曜日に変更と報道される。
その報道では、「仮説」として、自分が住んでいる州外への移動禁止とか、
夜間外出禁止が現行の23時から翌朝5時を18時以降に繰り上げられるとか、
70歳以上の人は外出禁止とか。
今回も状態がひどいミラノ、そしてナポリはロックダウンになるとか。


イタリア中の病院がすでにコロナの患者で溢れ、混乱しているらしい。
救急車が病人を乗せたまま病院の前で渋滞になっているとか、
ピエモンテの郊外の病院では、あまりに人手が足りないので夜間は救急をしめたとか。

10月22日には1万ちょっとだったコロナの入院患者が、
30日には1万9,809になっている。
このデータをもとに計算したワシントン大学の保健指標評価研究所の予想は、
11月10日には3万2,000床、そして11月24日には7万5,000床にまで増加するという。
この数字はイタリア全体の病院ベッド数の40%にあたるそうだ。


そんな状態になったら、もしもコロナに感染して具合が悪くなっても
入院できない、救急に行っても放置される。若くて既往症がなくて

簡単に治るものも重症化してしまったり。

知り合いに、おじいさんがアルツハイマーを患っていたイタリア人がいる。
そのおじいさんが、ちょっと前に肺炎(コロナではなく)になって入院したけど、
救急の廊下にストレッチャーに乗せられたまま4日間放って置かれたそうだ。
病院はもはやどこもそんなふうに、緊急の人を処置するので手一杯に

なってきているらしい。
コロナ禍の今、家族は病院に行けないし、本人はちゃんと話すことができない。
だから状況を想像することしかできないのだけど、
身体中床ずれが悪化して帰ってきたおじいさんを見て戦慄したと知人は言っていた。
そのおじいさんが数日前にまた具合が悪くなったけれど、
かかりつけ医も、家族も、もう救急に連れて行くのはやめよう、と決めて、
家で看病を続けた。そしておとといの夜、亡くなった。
コロナの陰で、世界中で、そんな人がいったいどれだけいるのかわからない。


夕方のテレビでミラノのショッピングゾーンは人混みでいっぱい、というニュースが

流れている。明日からロックダウンに入るだろうと予想されている
ミラノの人たちは、
しばらくお預けのショッピング、
しばらくお預けの人と一緒に過ごす楽しさに夢中になって、

怖さや辛さや不満を紛らわしているみたいだ。



コメント

youko さんの投稿…
あなたがヤマザキマリさんの漫画を読んで不快になったことはよくわかります。

しかし、わざわざ「素敵なコメント」を紹介するのはなぜでしょうか。

>素敵なコメントをくれた方がいた。その人はこう言っている。

>「イタリアで感染が急激に広まったのは、
>日常的にハグしたり、鼻ピアスにタトゥーをしてるようなお兄さんでも
>お年寄りにはさっと手を貸してあげたり、
>知らぬ同士でもすぐに政治やスポーツの話題で
>どこでも盛り上がるせいじゃないか。
>そして日本ではそれらがほぼない、
>っていうのも感染拡大が緩やかな理由では(?)」


感染拡大理由を少しでもよい習慣のせいとしたいのは当然だと思います。
しかしそのよい習慣がないことを非難するのは、ヤマザキマリさんがしたことと同じなのではないかと思います。
Madamin さんの投稿…
Youkoさん、返信遅くなってすみません。コメントありがとうございました。そうですね、私は日本のことを非難しているつもりはないのですが、そのように不快に思われたのなら残念です。

私があのコメントを載せたのは、イタリアが汚いから感染が拡大したのではないよ、ということをお伝えしたかったのと同時に、感染することが悪いことではない、誰にでも起こりうること、と言いたかったのです。

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