コロナと戦った57人の騎士
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6月1日、イタリアのマッタレッラ大統領が
コロナ禍に際して活躍した57人に、
”騎士勲章”を授与したという話。
へー、騎士勲章ってなんだろう?とググってみる。
24年もイタリアに住んでいるけど
勲章やら権威的なものに興味のない私には、なんだかよくわからない。
じゃあ、今回はなぜ調べてみる気になったかというと、
どうもこの57人のほとんどは権威とは関係ない、
普通の人のようだからだ。
Wikipediaには「イタリア共和国功労勲章」とある。
6つの等級があって、その中の一つが今回授与された”騎士勲章”。
イタリア語でCavalieri della repubblicaカヴァリエーリ・デッラ・レプブリカ、
直訳なら”共和国の騎士”。
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騎士ってこんな感じ? これはトリノの王宮博物館に展示されている、 サヴォイア家王子様の甲冑。 |
各分野で功労のあった個人に対して授与されるそうで、
過去には外国人にも授与されている。
日本人ではイタリア料理の落合務シェフや
サッカーの中田英寿選手が騎士勲章を貰っている。
最上位の勲章は現明仁上皇、
2番目の偉いヤツを黒澤明監督が受けている。
イタリア歴史小説の大家・塩野七生さんや
ヴェネチアなどの歴史的建造物に
現代の建築技術を融合させた安藤忠雄さんは
3番目の等級の勲章。
というわけで、今回の57人の騎士勲章をもらった人たち。
半分ぐらいは医師、看護師、研究者などの医療従事者。
最初の感染者を発見して治療をした医師と看護師。
集中治療室や救急医療の現場ではなくて、
診療所という比較的安全と思われていた場所で
医療に関わるホームドクターである彼らは、
人手が足りなくなったレッドゾーンの医療現場へ
感染の危険も顧みずに手助けに行ったという。
(実は後になって、ホームドクターが安全という説は
間違っていたことがわかる。
コロナ禍の初期、コロナとは知らず防護策を取らずに診察していて感染し、
亡くなってしまったホームドクターがたくさんいた)
仕事を終え、疲れ果ててキーボードの上で寝てしまった
写真がSNSで世界中に流れ、パンデミックのシンボルにもなった女性看護師も。
その写真は、こちらのリンクからどうぞ
。
救急隊員や病院の救急受付で重症患者たちに
対応したスタッフたちも受勲した。
受勲理由を読んでいて、
思わず鼻の奥がツーンとしてしまったのは、
ミラノの調理師学校の生徒
リカルド・エマヌエレ・ティリティエッレくん、19歳の話。
イタリアでは2月の後半から、
ロックダウンになるよりも前にまず
学校が閉鎖された。
それから今までもずっと学校は休みのままだ。
(イタリアは小学校から高校まで、
通常は6月の第1週から2週で学年が終了し、
9月の第1週ぐらいまでのほぼ3ヶ月、夏休みになる。
つまりイタリアの子供達は今年、
3月から9月までずっと学校に行かないことになる。
もちろんオンライン授業を、しているにはしているんだけど)
さて高校の最終学年のリカルドくんも、
学校が休みですることがなかった。
彼が住んでいるのは、感染拡大が一番深刻だった
ロンバルディア州のミラノ。
自分も何か役に立ちたいと考えた結果、
シェフを目指す自分は、
病院でウィルスと戦っている医療従事者の人たちに
食事を届けようと考えた。しかも無料で。
幸か不幸か、彼の実家はロステッィチェリアだ。
ロックダウンのせいで営業ができないから、
厨房は空いている。
ロステッィチェリアというのはローストを売る店、という意味で、
チキンのローストやらお惣菜やら切り売りピッツァを
売る店だ。イートインもできるし、テイクアウトもできる、
というスタイルのお店が多い。
街のショップでは、こんなふうに厳しく動線が指示されていて、人々が近づきすぎないように気を配っている。
さて、料理を届けようと決意したリカルドくんは
なんと自分のお小遣いで材料を買い、友達と3人で調理を始めた。
偉いなあ。そしてお父さんとおじいちゃんも手伝った。
そのうち、地元商店街の肉屋さんや八百屋さん、
お菓子屋さん、パン屋さんなどが材料を提供してくれはじめ
毎日食事を届け続けたという。
イタリアの調理師学校は、専門学校ではなくて
普通高校と同じ基礎の勉強もしながら
調理師科、ホテル科などに分かれて専門の勉強をする。
大学を目指して普通科高校に行っているエリート高校生達よりも
時として少し下に見られることが多いだろう彼らが
自分の得意なことを生かして社会に貢献したという、
すごくいい話。
耳の聞こえない人のために透明素材でマクスを縫った女性、
老人ホームの入居者達をできるだけ感染の可能性から遠ざけるために
家に帰らずホームに寝泊まりしたスタッフ達などなど、
57のエピソードはどれも素敵な話ばかり。
その中にはイタリア人じゃない人も何人かいる。
Mahoud Ghuniem Lfti さん(読み方がわからないので、すいません)は
レバノン出身。2012年からイタリアに住んで、職業は「ライダー」。
時給4ユーロとか、1回の配達で2ユーロなんていう噂もある
超ブラックな仕事、フードデリバリーをして暮らしている。
そんな彼が自腹で1000枚のマスクを買って
トリノの赤十字に寄付をした。
「イタリアが僕にしてくれたように、何かイタリアのためにしたかった」
ラグビーのイタリア代表チームの選手である
マキシム・ムバンダ選手は、
コンゴ人の父とイタリア人の母を持つハーフ。
イタリア代表選手として日本にも行ったことが
あるほどの一流選手だけど、
ロックダウンで試合やトレーニングができなくなった。
その暇を無駄にすることなく、
地元パルマで救急車の運転手ボランティアをして
地域医療の手伝いをし続けた。
イタリアにも差別はないとは言えない。
イタリア政府にもポピュリズム丸出しの政治家もいて、
ジョージ・フロイドさん事件に
抗議する人たちに軍を派遣するなんて言うトランプ大統領のツイートに
「いいね」をするような人が国の中枢にいる。
この57人のセレクトの中に白人じゃない人を入れたのは、
もしかしたら政府のイメージアップのための
計算もあるかもしれない。
(そうは思いたくないけど)
みんなこんなふうに洗って何度も使った。
それでも、計算さえもせず、
俺たちはお前らと違って民度が高いから
コロナの死亡率が低いのだと平気で言ってのける政治家よりは
人としてまともだと思う。
私は同じ日本人として、同じ人間として
イタリアの人たちに本当に申し訳ない気持ちと
恥ずかしさでいっぱいになった。
6月6日、今日のイタリアは新規感染者270人(5日は518人)、
死者72人(5日は85人)。
人出が多すぎるとか、第二波が怖いとか
心配性な意見も多いけど、
とにかく着々と収束に向かってきている。
空は青く、日差しは強烈なのに空気はすっきりと澄んでいる。
今、イタリアは一年で一番気持ちがいい季節。
コメント
行ったことのないイタリアの様子や景色など、心配しつつ読ませていただいていたので、悲しくなりメールしてしまいました。
日本は日本で、今の日本や国民が、それぞれ出来ることを一生懸命やっています。どうぞ、誤解が解けますよう願っています。
日本はところどころでクラスターが発生していますが、その中で日常を取り戻すべく個々が努力しているところです。そちらも緩和されて、本当に良かったですね!
お気を悪くさせてしまうかもですが、思い切ってメールしました。どうぞくれぐれもお体に気をつけてくださいませ!
コロナで知ったこのブログですが、楽しみにしています。
withコロナの暮らしはしばらく続きそうですが、日本も、イタリアも、元気で頑張っていきたいですね。また読んでくださいね。